シリーズ「今年の株主総会 質疑応答の話題」
~その傾向から、個人株主と会社側双方の成長を見る~

2018年12月25日

ディスクロージャー事業部 IRソリューション部 イベント制作部担当
執行役員 部長

伊藤 直司

今年の株主総会 質疑応答の話題

連載第七回(最終回)

⑦「総会運営」およびその他の話題

※文中のQおよびAはすべて株主総会の会場で実際に出た質問と回答です。青色文字は筆者の個人的コメントです。

1)総会運営

総会の運営については、株主は気軽に意見を言える立場にあるので話題になりやすいです。

株主との対話重視、株主平等の原則という観点から、本社所在地だけでなく日を改めて地方でも株主報告会(説明会ともいう)を行う企業が出てきました。まだ少数派ですが、いずれ「他社では開催しているのに当社はなぜやらないのか?」という質問は来ると思いますので、準備しておいた方が良いと思われます。

意外だったのは、会場の株主から質疑応答の「打ち切り」を促す発言が出てきたことです。主催者側の「打ち切り」に反対するだけかと思っていましたら、その逆ですね。これは、株主自身が「建設的な意見なら良いが、製品・サービスへのクレーム・苦情や個人的な意見、思いつき発言等はレベルが低い。このようなことを続けても意味がない」と思うようになってきたということでしょうか。株主の意識の向上とみることができます。


<実際に出た質疑応答例>

○○県から参加した。株主平等の観点から総会終了後に地方都市で株主報告会を開催する企業が増えているが、御社は何か検討をしているか。地方での株主報告会は検討する価値があると思うが。
開催の予定はしていない。地方の方たちが参加できるため13時に開催するなど配慮している。
各社が株主総会をやる時期だ。みんな10時から一斉に始める。掛け持ちしたいが午後からにはできないか?
株主総会の日時の変更のご要望だが、まずは会場を押さえなくてはならない。これが大変。準備にも日数がかかる。7月にやるわけにはいかないので、多少早くすることは考えている。あえて集中日に開くのは昔の話でこだわってはいない。何らかの変更は考えている。

今後社外取締役の兼任が増えると、午前同時刻の開催が難しくなり、午後開催が本格的に検討されるようになるかもしれません。

事前に質問状を送っているのだから答えてほしい。
多くの株主の方々から質問をいただきたいと考えているので、事前の書面を質疑応答の冒頭に取り上げることは考えていない。

事前質問は回答を用意しておく必要はありますが、必ずしも会場で読み上げる必要はありません。

招集通知がとても見やすくなっている。特に前年比較できる計算書類は比較できて良い。
招集通知については今後も中身を見やすくわかりやすく変えていきたい。
質問ではないが、今回の「招集通知」は他社に比べても、非常に見やすく、好感が持てる。このように様々な面で今後も株主への配慮を期待したい。
お褒めにあずかり光栄。今回の招集通知は「見やすさ」や「企業イメージ」ともに向上させるべく、担当部署が非常に頑張っていた。このようなお言葉が今後もいただけるようさらにより良く、わかりやすいものをつくっていきたい。

従来、招集通知は各社一様の面白くもなんともない体裁でしたが、株主の意識の高まりとともに先進企業が工夫を凝らしてきたことにより、遅れている会社が目立つようになってきて、株主から「ウチも改善してくれ」と言われる時代になりました。

株主総会の席上で、個別のサービスに対しての質問を受けるのは時間の無駄に思うので、別途サービスについての問合せ・対応窓口を作ってはどうか?
検討します。ただ、株主の皆様から幅広く意見を聞く貴重な機会とも思っている。
周囲の株主はもう帰っている。開かれた総会とは言え全ての意見を全部聞くのか?株主懇談会のような意見になっている。
(議長が苦笑しながら)ご指摘のようなのでそろそろ採決に移ろうと思うがどうか?⇒会場から拍手が出るが、1名が挙手。議長から「ではあと1名で」と案内。
事業報告・議案以外にも質問して良いのか?
本来であれば、事業報告・議案に関する質問に限定してもらいたい。しかし、経営向上のために質疑応答をお受けする。

立派な姿勢ではないでしょうか?

総会に関係のない質問も多くなってきて、時間も無いので採決して欲しい。
わかりました。
株主提案も質問も重複している項目が多く無駄だと思う。建設的な提案を願う。
会社法に則って適切に対応していく。

株主の方でも、会社の成長のために建設的な意見を言いたいと思う気持ちが醸成されつつあるようです。

総会の場で意見を言うのはものすごく勇気がいるので、紙でのアンケートを復活してほしい。また、総会での質問に過去に当社は真摯に対応してくれている。対応したことなどはPRにもなるので、ネット等でも開示していったほうがよいと思う。
紙でのアンケートは総務部でも検討していく。どのように開示していくのか等の点も考えていきたい。電話やメール等で頂いた意見も含め今後開示のしかたを検討していきたい。
すごくいい会場だが、膨大な費用がかかっているのではないか?また、毎年参加しているが、いつも質疑応答を1時間くらいで打ち切ってしまってもったいない。株主の意見を本当に聞く意志があるのか?
具体的な金額は公表できないが、株主の皆様をきちんとお迎えするために必要な費用をかけている。質疑応答の時間は、1時間半くらいは毎年かけている。1時間で打ち切ることはしていないと思う。
新しく取締役、監査役に就任される方の顔を見たいので挨拶してほしい。
(社長)質疑応答中のため終了後に行います。(※実際に質疑応答の後、採決に入る前に新任の取締役1名、新任の監査役2名から一言挨拶と抱負を述べさせる)

2)為替レート

会社の業績の変動要因として会社側が何ともしがたく、また最も影響の大きいものが為替です。そのため、会社がどのような想定でいるのか、どのような影響があるのか(いわゆる「一円動くと・・・」)、何か対策のようなものはとっているのか、については回答を用意しておくべきと思われます。

3)相談役・顧問制度

世間で騒ぐほど質問事例は多くないです。功成り名を遂げた会長・社長経験者からは、社外取締役とはまた異なった視点からの(長年業界で活躍したベテランからの)助言を期待できます。業界団体活動、社会貢献活動等、他社の社外取締役としての活動等、その存在価値は大きいです。

要は、①人数・役割・報酬等を明確にしておく、②要請に応じた助言以外は現体制の経営に関与しない、というような点を明確に伝えるべきです。

4)ベンチマーク

株を保有しているとはいえ事業内容をよく知らない株主が何か発言したいと思った時に一番便利な質問。「この会社の事を良くわかっていないので、同じようなことをしているもっと有名な(大きな)会社を教えてくれ」というもの。失礼と言えば失礼な問いかけですが、目標としていたり、憧れている会社があったら答えてあげてもいいでしょう。「そんなものはない。我は我」という回答も悪くないです。

5)障害者雇用

来年~2020年は東京パラリンピックを控えて、例年以上に障害者の活躍が取り上げられると思います。頻出するとは言えないテーマですが、こうした問題に意識が高い方から問いかけがあった場合に現状の雇用比率等を答えておけるようにしておきましょう。

6)ESG、SDGs

株式投資市場やIRの業界では一番ホットな話題ですが、株主総会での質疑応答という点ではまだそれほどポピュラーではありません。視点を身近な社会貢献活動、被災地支援/ボランティア活動、地域貢献活動等に向けて、これらの実績を確実に押さえておき、あとはコーポレートガバナンスの強化の取り組みについて答えられるようにしておきたいところです。

本件に関連する質問が出た場合は、会場の一般株主のために、「ESGとは」「SDGsとは」から説明する必要があるかもしれません。ただ時間の制約があるので、「売り上げや利益といった財務面の業績数値だけを追いかけるのではなく、国際社会の要請に沿って、環境・社会・コーポレートガバナンスの面でも取り組みを強化している。世界の投資家もこうした点に力を注いでいる企業に投資をするという動きが盛んになってきているのは認識しているので、この点の情報開示にも積極的に取り組んでいく(いる)」と説明なさったらよろしいかと思います。できればいくつかの事例紹介と、そしてそれがどう社業の発展につながっているのかまで説明したいところです。

「(ESG、SDGsは)当然意識・認識している。詳しいことは○月に報告書を出すので(あるいは)当社のホームページに詳しく掲載しているので、ぜひそれをお読みいただきたい」と対応するのもスマートで良いかもしれません。

いかがでしたか?各社の回答例、参考になりましたでしょうか?今回、質疑応答をまとめていて思いましたのは、株主の質問のレベルが上がっていることと、それに対する各社の回答がその姿勢・内容とも格段に向上している点です。これはコーポレートガバナンス・コードの適用開始の影響もあると思いますが、それ以上に各社で「株主との対話」について真剣に考えてこられた成果ではと思います。素晴らしいですね!有難うございました。(この連載終わり)

この連載中に記載した青色文字で始まるコメントは、全て筆者の個人的な見解であり、過去および現在所属する組織の統一見解ではありません。正確な情報と長年の経験に基づいて提供しておりますが、内容の正確性につきましては免責させていただきます。それぞれの見解につき、組織としてその導入・採用を推奨するものではありません。実際の運用に際しましては、専門家である弁護士、証券代行機関等の方々にご相談いただきますようお願いいたします。

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