シリーズ「今年の株主総会 質疑応答の話題」
~その傾向から、個人株主と会社側双方の成長を見る~

2018年12月17日

ディスクロージャー事業部 IRソリューション部 イベント制作部担当
執行役員 部長

伊藤 直司

今年の株主総会 質疑応答の話題

連載第六回

⑥「海外展開」、「長期的展望」

※文中のQおよびAはすべて株主総会の会場で実際に出た質問と回答です。青色文字は筆者の個人的コメントです。

1)海外展開・注力部門・戦略

海外展開の質問は定番ですが、最近は、海外全般あるいは先進国の状況よりも、中国・インド・マレーシア・ミャンマー・ベトナムといった国々についての進出状況を問う質問が目立ってきました。これは成長著しいアジアへの期待と同時に、従業員の安全、子会社の不祥事リスクを心配する気持ちからと思われます。ですから「ドンドン展開している。期待してください!」ということだけでなく、「チャンスと同時にリスクを意識し、目の行き届く範囲でしっかり管理している」という点を伝えることが大切と思われます。

今後力を入れていく部門にはいつごろどのような投資をしていくのかが問われる場面があります。ただ、資源を投入するばかりが注力ではないという考えもあり、それはきちんと説明すべきです。一般人はどうしても、「伸ばそうとするならそれなりの成長投資をしなくては伸びるものも伸びない」と思うのが自然だからです。


<実際に出た質疑応答例>

海外展開、特にインドでの事業について知りたい。
インド市場へは7~8年前から参入しているが、主に○○や○○の事業展開をおこなっている。今期は○○が非常に好調であり、ようやくマッチする製品を投入することができた。これを機に販売網の拡充に努め、事業展開をさらに伸ばしていきたい。
少子高齢化となるので海外展開は必要。だが人種・国をよく絞った研究開発をしないと無駄になる。どういった戦略でいるのか?
海外展開・研究開発は国ごとの規制や実状に合わせて選択している。その上でニーズ・製品が受け入れられる余地を市場調査している。
当社製品の販売個数が世界第○位に下がった。数年前に社長は「数字を追わない」と発言していたが、数字目標がなければ、このまま順位が下がっていくのではないか?No.1を目指してほしい。そうすれば株主も安心する。
当社としては、着実な成長をしたいと考えている。当社はこれまで、1つの目標に向かって突き進む傾向があり、長期的な過程で目的を見失うことがあった。いたずらに販売個数を追うことはしない。一人ひとりのお客さまを大切にし、お客さまの心の中のNo.1になりたい。永く大切にしていただける製品をつくることが差別化の証であり、その結果が販売個数に繋がると考えている。
2020年のオリンピックのパートナーシップ契約を結んでいて、企業としてはかなり良い広告材料になると思うが、株主としてはかなりお金がかかっているのではないかと心配している。
オリンピックのパートナー契約は、競争力を高めるために大変有効な手段であると考えている。パートナー契約を通し、人材の育成や当社を応援してくれる人を増やすことが大きな目標。以前、障がいのあるパラリンピックの選手に講演を行なってもらった際、当社の社員に向けてこちらが勇気づけられる夢のあるコメントを頂いた。それを聞いた社員たちは「やるぞ」という気持ちになった。オリンピック・パラリンピックのパートナー契約を通し、こういった機会をもつことで人材を育成することが何より大切。この活動はお金にかえることができない貴重なものであると考えている。

2)長期的展望について

中長期の展望を株主が尋ねたり、会社側から説明するのはもはや普通の事ですが、その先、例えば10年後に会社はどうなっているのか等を尋ねる株主も出てきました。こうした質問に、かつて「そんな先のことはわからない」「その頃、私は会社にいない」と言い放ったトップがいましたが、その回答がどれほど株主を落胆させるかは言うに及びません。本音はそうでも、回答のしようはいくらでもあります。

是非ここは、夢を語ってほしいものです。株主が「ああ、私は素晴らしい会社に投資しているんだ」と感動して家路につけるような夢を。それがあれば菓子折りのようなお土産は必要ないのでは?


<実際に出た質疑応答例>

社長は50年後、100年後の日本の未来をどのようにお考えでしょうか?
(副社長)正直申し上げて、想像もつかない。私は半世紀以上当社で働いているが、私の入社した当時の当社はまだ本社と1つの工場しかないほどだった。その当社が、ここまでグローバルな企業になるとは想像もできなかった。製品も会社も大きく進化した。世の中はスピードをもって変化している。モノづくりの世界も変わっていくが、モノづくりの中心に人がいることはいつの時代も変わらない。夢を追えばいつかは叶う。今後もいい製品を作っていきたい。
創業○○周年ということで改めて創業者がやってきた改革は素晴らしいと感じた。50年前に週休2日にしたり、仕事を分けたり、今でいう働き方改革を50年前にやっていた。次の○○周年に向けてどうしたいのか?
(社長)これを説明するには相当の時間を要するので本当に核心だけお伝えする。社会の変化にいかに対応できるかが非常に重要と考えている。ニーズはどんどん変わっていくのでそれに対応するために意識を変えていかなければならない。そのために非常に厳しいことも言わなければならない。たとえば一般消費者向けの製品を作っていた会社なのに「B to Bに注力する」と言って販売店から相当お叱りを受けた。でもこれからの変化に対応するため、会社を続けていくためには変化していかねばならないと感じたのでそう言った。創業者のような大きな改革はできないが、意識を変えるための発言はできるかと思うので今後も続けていく。そして社会に対応できる会社にしていきたい。
中期計画の先は考えているのか?
10年先の経済状況は誰もわからないと思う。そのため当社は中期での計画に留めているが、経営理念は絶対にぶれない。

次回はいよいよ最終回。株主総会の運営に関する話題と、その他の話題についてまとめてお知らせします!

この連載中に記載した青色文字で始まるコメントは、全て筆者の個人的な見解であり、過去および現在所属する組織の統一見解ではありません。正確な情報と長年の経験に基づいて提供しておりますが、内容の正確性につきましては免責させていただきます。それぞれの見解につき、組織としてその導入・採用を推奨するものではありません。実際の運用に際しましては、専門家である弁護士、証券代行機関等の方々にご相談いただきますようお願いいたします。

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