2022年2月18日
開示・教育支援事業部
教育支援事業部担当 兼 ディスクロージャー調査研究部
執行役員 部長
高橋 義明

1.はじめに
内閣府知的財産戦略推進事務局及び経済産業省経済産業政策局産業資金課が立ち上げた「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」は、2022年1月28日に「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン(略称「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」)Ver1.0」(以下「ガイドライン」という。)を公表しました。
ガイドラインは、企業が新たな知財・無形資産へ積極的な投資を⾏い、イノベーションを⽣み出し、熾烈な国際競争を勝ち抜いていくためには「投資家や⾦融機関に伝わる知財・無形資産の投資・活⽤戦略の構築・開⽰・発信」が重要と位置付け、投資家や機関投資家が重視する視点を「5つのプリンシプル(原則)」として掲げ、知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・開示・発信に向けて企業がとるべき「7つのアクション」をまとめています。
2.「5つのプリンシプル(原則)」
【企業側】
- (1)
-
「価格決定⼒」あるいは「ゲームチェンジ」につなげる
- 知財・無形資産を活用したビジネスモデルを積極的に展開し「価格決定力」につなげる
- 発想の大転換を伴うイノベーションによる競争環境の変革(ゲームチェンジ)につなげる
- (2)
-
「費⽤」でなく「資産」の形成として捉える
- 知財・無形資産の投資を「資産」の形成と捉え、安易に削減の対象としないよう意識
- (3)
- 「ロジック/ストーリー」としての開示・発信
- 投資家等に知財・無形資産投資活用戦略を「ロジック/ストーリー」として説得的に説明
- (4)
- 全社横断的な体制整備とガバナンス構築
- 社内の幅広い知財・無形資産を全社的に統合・把握・管理
- 戦略の策定/実行/評価を取締役会がモニターするガバナンス構築
【投資家・金融機関側】
- (5)
- 中⻑期視点での投資への評価・⽀援
- 短期的には利益を圧迫しても、大胆な知財・無形資産への投資を理解し支援する姿勢
- 中長期的にESG課題解決につながる戦略について、その経営判断を後押しする積極的なアクション
3.「7つのアクション」
知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・開示・発信に向けて企業がとるべき「7つのアクション」は以下です。
- ①
- 現状の姿の把握
- 自社の現状のビジネスモデルと強みとなる知財・無形資産の把握・分析を行い、自社の現状を正確に把握する。
- ②
- 重要課題の特定と戦略の位置付けの明確化
- メガトレンドのうち自社にとっての重要課題を特定したうえで、注力すべき知財・無形資産の投資・活用戦略の位置づけを明確化する。
- ③
- 価値創造スト―リーの構築
- 自社の知財・無形資産の価値化がどのような時間軸でサステナブルな価値創造に貢献していくかについて達成への道筋を描き共有化する。
- ④
- 投資や資源配分の戦略の構築
- 自社の現状の姿と目指すべき姿を照合しギャップ解消のための投資や経営資源配分等の戦略構築しその進捗をKPI設定等で適切に把握する。
- ⑤
- 戦略の構築・実行体制とガバナンス構築
- 取締役会で知財・無形資産の投資・活用戦略の充実した議論の体制整備、社内の幅広い関係部署の連携体制の整備等に取組む。
- ⑥
- 投資・活用戦略の開示・発信
- 法定開示資料の充実だけでなく任意の開示媒体、広報活動、事業見学等も効果的に活用し知財・無形資産の投資・活用戦略を開示・発信する。
- ⑦
- 投資家等との対話を通じた戦略の錬磨
- 投資家や金融機関その他の主要なステークホルダーとの対話・エンゲージメントを通じて知財・無形資産の投資・活用戦略を磨き高める。
4.おわりに
2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードの補充原則で知的財産への投資について、具体的な情報開示・提供、取締役会による実効的な監督が盛り込まれました。その対応を各企業の皆様が考慮する際において、本ガイドラインは有用な考え方を提供するものと位置付けられます。
以 上
サマリー
- 2022年1月28日に公表された「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」では、「投資家や⾦融機関に伝わる知財・無形資産の投資・活⽤戦略の構築・開⽰・発信」が重要と位置付けています。
- 戦略の開示・発信にあたり投資家や機関投資家が重視する視点を「5つのプリンシプル(原則)」として紹介し、企業がとるべき「7つのアクション」をまとめています。
(5つのプリンシプル)
- ①
- 「価格決定⼒」あるいは「ゲームチェンジ」につなげる
- ②
- 「費用」ではなく「資産」形成として捉える
- ③
- 「ロジック/ストーリー」としての開示・発信
- ④
- 全社横断的体制整備とガバナンス構築
- ⑤
- 中⻑期視点での投資への評価・⽀援
(7つのアクション)
- ①
- 現状の姿の把握
- ②
- 重要課題の特定と戦略の位置付けの明確化
- ③
- 価値創造ストーリーの構築
- ④
- 投資や資源配分の戦略の構築
- ⑤
- 戦略の構築・実行体制とガバナンス構築
- ⑥
- 投資・活用戦略の開示・発信
- ⑦
- 投資家等との対話を通じた戦略の錬磨