決算短信の歴史

2020年1月10日

ディスクロージャー制度調査室長
兼 プロネクサス総合研究所 理事長
常務執行役員

水沼 久雄

今回は決算短信の歴史をテーマにして当ナレッジを記述することとします。

■決算短信の起源

「決算短信の起源」についてと小見出しを付けましたが、実はその起源ははっきりとしていません。取引所関係者に直接お聞きしましたが、「決算短信がどのような経緯でいつ頃に始まったかを以前調べたことがあるが、詳細なことまで分からなかった」とのことです。その理由は、決算短信がそもそも取引所の制度としてスタートした開示制度ではなく、もともとは記者クラブ(兜クラブ)と上場会社との間で自然発生的に行われた決算発表が始まりであったため、取引所側では起源等の記録がないためだそうです。
昭和40年代(1965~1975年)には記者クラブが上場会社に使用を要請していた決算発表用の資料様式が既に存在していたとのことです。具体的には、上場会社は主要な経営指標として直近2期の売上高、経常利益、配当金、1株当たり利益、更に次期の業績予想、役員の異動をこの様式に記載することになっていました。記載された決算数値は速報版であり、当時の商法や証券取引法での監査手続きは未了のものであります。これが現在の決算短信の起源に当たると思われます。ちなみに様式の分量は定型版で紙1枚でした。
その後、昭和50年代になると、記者クラブは主要な経営指標を記載した定型1枚に加え、①貸借対照表、損益計算書、利益金処分案、部門別売上高明細表の「財務情報」、②当期及び次期の業績概況の「定性情報」の2種類の資料を添付するよう上場会社に要請しました。更に昭和52・53年には中間決算短信、連結決算短信の様式を定めています。この頃には「決算短信」という名称は証券市場では一般に用いられていました。
決算に係る業務量は年々増大していますが、その日程は昭和40年代・50年代も現在も左程変わっていません。3月決算会社の日程でみると、ご存知のとおり6月の株主総会に向けて、計算書類・事業報告(会社法監査済み)の決算取締役会を5月前半までに開催し、その後、株主総会招集通知書を株主総会の2週間前までに送付します。多くの上場会社は総会後に有価証券報告書(金商法監査済み)を財務局に提出します。したがって、決算情報は監査未了であれば5月半ば頃には内容が定まっています。このような日程で決算業務が進みますので、上場会社の最も重要な情報である決算情報は、①情報の偏在による売買や思惑売買の未然防止、②市場価格の公正な形成などから、上場会社、証券市場、情報伝達者の報道機関(記者クラブ)のそれぞれのニーズが合致し法定開示の前に公表されるようになったものと思われます。
この頃になりますと、記者クラブでは決算短信様式の見直し等は荷が重いとし、昭和55年(1980年)にその業務を証券取引所が引き継ぐことになりました。

■取引所移管後の決算短信の変遷(拡充)

証券取引所に所管が移行した後の決算短信の主要な変遷を簡単に整理します。
平成11年(1999年)に定性(記述)情報が充実し、従前からの「当期及び次期の業績の概況」等の定性情報を「経営方針」と「経営成績」に組み替えて拡充しています。特に「経営方針」には経営の基本方針のほか、利益配分に関する基本方針、中長期的な経営戦略、コーポレートガバナンスの充実に関する施策、会社の対処すべき課題、関連当事者との関係に関する基本方針、目標とする経営指標等々の記載を上場会社に求めました。
また、同年に創設されたマザーズ市場の上場会社に「四半期財務・業績の概況」の開示を義務化しています。同概況は5年後の2004年には東証1・2部上場会社にも義務化され、その後2008年の金商法での四半期報告書制度の導入に合わせて、取引所開示の中でも四半期決算短信が義務化しています。

■決算短信の迅速化・簡素化

決算短信の開示内容は前述のとおり決算情報に係る財務情報と定性情報が拡充してきたところでしたが、一方で、法定開示と重複する内容も多く、決算短信作成の業務量も増大したことにより迅速な決算発表が制約されているなどの指摘もでてきました。東証はこのような状況を踏まえ、2005年9月に決算発表時に投資家が必要とする情報が迅速に開示されるよう早稲田の黒沼教授を座長とする「決算短信に関する研究会」を設置しました。同研究会の検討をもとに、2007年3月期の決算短信から迅速な開示に向け開示項目で速報性・重要性の劣る部分は省略することを可能にするなどの総合的な見直しを行いました。
更に2016年4月の金融審ディスクロージャーワーキング・グループ報告において、決算短信について、①投資家ニーズに応える形で記載事項を増やしてきたため、速報としての性格に比して作成・公表の事務負担が過重、②記載内容が有価証券報告書の内容と重複が多い、③投資家の投資判断に重要な情報を迅速かつ公平に提供するものであるとの目的・役割により即し、より効果的・効率的な開示が行われるよう整理・合理化を行うことが適当、との言及がなされました。東証はこれを受け、2017年3月期から「決算短信の様式に関する自由度の向上」として、開示要請の対象をサマリー情報、経営成績・財政状態の概況及び今後の見通し、連結財務諸表及び主な注記の3項目に限定するなどの改正を行っています。

■おわりに

現在、決算短信について表立った特段の議論がなく、2017年の迅速化・簡素化の浸透や決算情報に係る投資家との対話を見守っている状況かと思います。ちなみに東証は簡素化という用語を用いず自由度の向上としています。
最後に、簡素化の一方でみられた自主的な開示についてふれたいと思います。従前からみられたことではありますが、投資家の投資判断に有用と上場会社が判断した情報を追加してサマリー情報に記載する事例が引き続きみられます。例えば、①IFRS任意適用の上場会社で日本基準の営業利益に相当する指標の追加、②EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)の追加、③配当性向で「親会社の所有者に帰属する当期純利益」から非経常的な損益を加減した利益をもとに算出した配当性向を追加、などの工夫がみられます。
もともと決算短信は自然発生的に始まり、上場会社が投資家に重要な決算情報を迅速に発信するためのものでありました。今後ますます上場会社による投資家との対話向上を図るものとして、決算短信にKPIやNon-GAAPを記載される会社が増えるものと思われます。

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