四半期開示をめぐる動向
-特に米国の最新動向について(上)-

2019年3月8日

ディスクロージャー制度調査室長
兼 プロネクサス総合研究所 理事長
常務執行役員

水沼 久雄

このナレッジを新たに担当することになりましたプロネクサス総合研究所の水沼です。担当初回の今回は我が国で導入してから20年を迎える「四半期開示」について、特に「四半期開示をめぐる米国の最新動向」について取り上げることといたします。

■日本における「四半期開示」の議論の現状

先ず米国の話に入る前に、我が国における最近の「四半期開示」に係る議論を確認します。金融審議会は昨年6月に「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-資本市場における好循環の実現に向けて-」(以下「当報告」といいます)を公表しています。この中で、四半期開示についてもふれられています。当報告では四半期開示制度についての「見直しすべきとする意見」と「維持すべきとする意見」とを踏まえ、「現時点において四半期開示制度を見直することは行わず、今後、四半期決算短信の開示の自由度を高めるなどの取組みを進めるとともに、引き続き、我が国における財務・非財務情報の開示の状況や適時な企業情報の開示の十分性、海外動向などを注視し、必要に応じてそのあり方を検討していくことが考えられる」と整理しています。
我が国の四半期報告制度は、ご存知の方も多いと思いますが、1999年に東京証券取引所が新興企業の業績変動が激しいことを想定してマザーズ市場の上場制度で四半期開示を義務付けたのが最初です。その後、2003年に他の上場市場においても義務付けを拡大してきました。法定開示では2006年に金融商品取引法で義務化されるに至りました。
四半期開示については、導入当時から様々な意見が交わされており、現在でも同じ状況といえます。代表的な賛成意見は「中長期の移転で投資を行う観点からも進捗状況の確認意義がある」、「相場のボラティリティーを抑える効果があるなど市場の透明性を高める」等が挙げられます。一方、見直しの代表意見としては「経営者に短期志向を強い、中長期の目的に向けての経営の妨げになる」、「3か月ごとの決算は上場会社に多大な業務負担やコストを強いる」等です。当報告はこれらの両論を併記して、前述の「現時点では四半期開示制度を見直しすることは行わず・・・必要に応じてそのあり方を検討していく」としています。

■トランプ大統領が四半期開示制度について発言

金融審議会が公表した直後の昨年8月以降、米国で四半期開示制度をめぐる新たな動きが生じました。多くの報道機関が一斉に取り上げましたが、トランプ大統領が8月17日のツイッターに「世界のトップビジネスリーダー達と話した際、私は米国のビジネスと雇用を更に良くするために何が必要かを質問した。一人が『四半期開示を止めて半年ごとの制度にすること』と発言した。それによって企業は柔軟性を高めるとともに節約にもなる。私はSECに検討を指示した。」を投稿したというものです。報道によりますと、このビジネスリーダーは「企業がもっと長期的な視点を持てるようにするとともに、欧州の開示制度との調和を図るべきだと」という考え方に基づいて発言したようです。トランプ大統領の指示を受け、SECのクレイトン委員長は同日付けSECホームページのPubic Statementに「SECは開示頻度を含めて、企業の開示制度に関する調査を継続している」と同委員長の写真入りでアップしました。ちなみにクレイトン氏はトランプ大統領からSEC委員長に指名されて就任した人物です。

■トランプ発言と投資家保護のはざまで揺れるSEC

8月の時点では四半期制度の具体的な展望には触れていませんが、その後、クレイトン委員長やSECは四半期制度について触れています。3か月後の11月12日、外部団体主催の企業の財務担当管理職向けイベントで、クレイトン委員長がスピーカーとして参加し四半期制度に触れ「大統領が四半期制度の問題を取り上げたことは正しい。経営が過度に短期志向となっていないか。それに対してSECは何ができるかという大統領の問いは全くそのとおり」とスピーチしています。また、このスピーチの中で四半期制度のもう一つの面として、投資家が常に業績や重要な企業イベントに関する高品質でタイムリーな情報を求めていることにも理解を示しています。続いて12月6日にSECが2019年活動計画を発表し、その中で長期投資を促す重要性を強調しています。クレイトン委員長は“四半期の決算や業績予想開示のあり方を含めた開示制度が過剰な短期主義をもたらしているか”について議論を続けていると述べています。
更に、12月18日には開示会社による四半期開示に関しコメントの募集を開始すると発表しています。具体的には次の4つのポイントについてコメントを求めています。

  1. ①開示会社が四半期ごとにForm10-Qで提供しなければならない開示内容とタイミング
  2. ②投資家保護を強化維持しつつ、開示会社が開示する情報の不必要な重複を減らす方法
  3. ③SEC規則で、開示会社が行う定期的な報告の頻度について柔軟な対応を認めるべきか
  4. ④既存の定期開示システム、業績発表及び業績予想が開示会社や投資家の短期志向を促すかどうか

これらのコメント募集は2019年3月21日までとしています。4つのポイントをみると、SECにはトランプ大統領の指示を受けて四半期開示制度を見直したい姿勢が見て取れますが、一方では投資家保護の強化維持に留意する姿勢も合わせて示しており、ここに“SECの苦悩”が現れてもいます。

次回の当ナレッジは「四半期開示をめぐる動向-特に米国の最新動向について(下)-」として、欧米の四半期開示制度概要とトランプ大統領のツイートに対する市場関係者の反応等を中心に書かせていただきます。

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