シリーズ「今年の株主総会 質疑応答の話題」
~その傾向から、個人株主と会社側双方の成長を見る~

2018年12月5日

ディスクロージャー事業部 IRソリューション部 イベント制作部担当
執行役員 部長

伊藤 直司

今年の株主総会 質疑応答の話題

連載第五回

⑤「働き方改革・社員の安全」、「人材確保・採用、人事制度」

※文中のQおよびAはすべて株主総会の会場で実際に出た質問と回答です。青色文字は筆者の個人的コメントです。

1)働き方改革・社員の安全

株主は非常に気にする話題です。某大手広告代理店の超過労働による自殺事件のインパクトがあまりに強いからです。働き方改革を誤解して労働生産性が低下してしまっては良くないですが、それより過重労働による投資先の信頼失墜のほうが株主には避けたい問題と思われます。

株主の親族がその企業に勤務中、或いは就職させたいと考えている株主も少なくないはずで、彼らにとってはさらに切実な問題です。

グローバル企業においては、①海外赴任者の現地での政変やテロ等に対する備えが取られているか、②海外事業所の社員が不満を持っていないか、教育が出来ているか、もポイントです。


<実際に出た質疑応答例>

当社グループ内での働き方改革はどうなっているか?
グループ企業で、22時以降の残業を原則しない、管理職も含めて20時には極力帰宅するということを昨年から行っている。更に今年は、その対象をパートナー企業にまで広げ、自社内の仕事を外部企業に押し付けるようなこともないようにという働き方改革宣言を推進している。
昨今、働き方改革が叫ばれているが、長時間労働・過重労働などへの取り組み聞かせてほしい。
社員・アルバイト共に、シフトの偏りや労働時間について個人単位で把握・管理し、指導している。社員の残業時間も前期から減少している。今後も働き方の管理・改革に努める。
5本の柱にもある「働き方大改革」だが、リモートワークは可能か?
技術的にはリモートワークができる環境は整っており、日々活用はしている。課題は勤務体制・勤務管理をどうするかで、一部の部署では試行中。
重点課題に働き方改革が盛り込まれているが、実際には離職者が多い。今年度の離職者の数を教えてほしい。
当社では外部の有識者から効率化のアドバイスを受けている。また○○活動を進めて、生産性の向上に努めている。離職者の数については、手元資料がないので回答を差し控えたい。
一部の他社の外食店では深夜営業をやめているが利益率は変わらない、という話がある。当社は深夜営業をやめるつもりはないのか。
立地や客層によって、夜シフトの従業員にとっては逆に深夜通し営業の方が都合がいいこと等があり、基本的に当社は24時間営業の方針。一方で、時間帯別の売上等勘案し、深夜営業していない店舗もあり、検討の余地は残している。
社員の有給休暇取得率を教えてほしい。
平均取得日数は5~6日となっており、一般的に見て少ないのは把握している。重要な経営課題だと認識しており、様々な施策を実施しているところ。これからも働きやすい会社であるよう努力していく。
入社した社員が最後まで働けるような取り組みにはどんなものがあるか?
介護休暇や在宅勤務制度などは整っている。介護が終わった後に復職することも可能。
当社で働いている社員の安全はどうなっているか?
過去の事故から安全を最優先にし、業務を行っている。仕組み、知識、風土の3つの観点で安全性の向上を図っている。仕組みは、社内の安全基準。中には、国の安全基準よりも厳しいものもある。知識は、教育や体験活動による取り組み。風土は、コミュニケーションの向上により、風通しがよくなることで安全性の向上を図っている。
様々な文化の異なる従業員をどのようにまとめているのか?
10万人以上いる社員の心を1つにするのは非常に難しい。海外のA国からの撤退が決定した時、A国の工場の社員たちは「最後の日までお客さまに迷惑をかけないように」としっかりと働いてくれた。A国のような工場が増えるように、今後も取り組んでいきたい。
株主総会当日に、会場前で労働組合の演説が行われていた。労働組合とうまくいっていないのではないか?見苦しいので、うまく大人の解決ができないのか?
労使関係はうまくいっていると思っている。どのような団体が演説しているのか把握していないが、複数ある労働組合のうちの一つだと思う。私も株主総会当日にそのような演説を行うべきでないと思っている。今日の株主様の意見を聞き、今後自粛してくれる事を願いたい。
報道された事故には内部通報があったのか。
内部通報者を守る前提から内部通報があったかどうかは公表できない。コンプライアンス教育は業界内でも徹底していると自負している。
我々株主やOBが心配するのは不祥事である。品質基準の違反や会計不祥事は、本部や上司のノルマ要求が厳しくて、現場がやむを得ず不正を働くケースが多いようだ。是非、無理な達成要求はやめてほしい。もう一つの心配はインサイダー取引とか内部告発、情報漏洩というリスクである。こうしたことが起きないように、教育とかセキュリティ対策或いは内部通報システム等は設けられているのか。
当社ではコンプライアンスを一時的なものではなく、また会計だけでなく広範囲にわたるものと認識している。コンプライアンスは社員の教育からスタートしなければならない。何か問題が起きた時に、これはコンプラ上問題であると認知できることが重要である。内部通報システムは完備している。これで重要なのが、安心して通報ができること、すなわち通報した者が報復を受けないことである。

2)人材確保・採用、人事制度

街中で就活生を良く見かけますが、少子化により企業が採用難で人材確保に苦労しているような話を聞きます。「当社は大丈夫か?」「優秀な人材を確保しているのか?」等は、株主なら当然の心配です。働き方改革と併せて、福利厚生や処遇の点でも他社や業界平均と比べてどうか気になるところです。

時代の流れと共に、また事業がグローバルに拡大していくにつれて、人事制度も変わっていくだろうということは誰もが想像できます。日本的な人事制度には良い点と改善すべき点があると思われ、どのような考え方でグローバル化や働き方改革に向き合っていくのかが問われる時代になってきています。回答に際しては、「これが完全とか完成形と思っていない。国ごとの慣習に合わせ、また時代の流れに合わせて変えていく」というスタンスをお伝えするのがよろしいのではないかと思います。


<実際に出た質疑応答例>

世間では人材不足が叫ばれているが、御社は新卒を含め人材を確保できているか?
新卒については、予定定員数を確保済である。人材確保の難易度が増していることは自覚している一方で、当社では人材流出を防ぐ策を強化している。出産・育児休暇による退職を防ぐための休暇制度、何らかの理由で当社を離れてしまった方のリターン制度等を準備している。
グローバルな展開をしていく企業として、人事制度は日本的な仕組みが基盤となっているのか。
完全に年功序列というわけではない。国によっても違う。少しずつ変えてきている。一人一人が活躍できるような制度にしていく。
正規雇用に対して、役員報酬を下げるなどして正規雇用者に還元し発展して欲しい。
6年前はグループ国内全体で契約社員が8万人いたが、そのうちトータル2万人を正規雇用に変えた。18年度も約1万8千人の契約社員を正規雇用に変えていきたい。
企業は人なりというが人材育成についての方針は?
関連会社が千社以上ある。若い時からその経営に関わることで成功・失敗の経験をさせていく。
どういった人材育成をしているのか。
若いうちから責任あるポジションを任せ、拠点・取引先へ行って活動させるようにしている。

次回は会社の戦略に関わる「海外展開」「長期的展望」およびその他の話題についてまとめます。

この連載中に記載した青色文字のコメントは、全て筆者の個人的な見解であり、過去および現在所属する組織の統一見解ではありません。正確な情報と長年の経験に基づいて提供しておりますが、内容の正確性につきましては免責させていただきます。それぞれの見解につき、組織としてその導入・採用を推奨するものではありません。実際の運用に際しましては、専門家である弁護士、証券代行機関等の方々にご相談いただきますようお願いいたします。

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