シリーズ「今年の株主総会 質疑応答の話題」
~その傾向から、個人株主と会社側双方の成長を見る~

2018年11月14日

ディスクロージャー事業部 IRソリューション部 イベント制作部担当
執行役員 部長

伊藤 直司

今年の株主総会 質疑応答の話題

連載第四回

④「株主優待」、「お土産」

※文中のQおよびAはすべて株主総会の会場で実際に出た質問と回答です。青色文字は筆者の個人的コメントです。

1)株主優待(内容および長期保有者優遇措置)、個人株主対策

最近は長期保有者への優遇措置を付ける会社が増えてきています。これがない会社はその点について要望が来ることが予想されますので回答を用意しておいたほうが良いでしょう。

また、一単元が1,000株の会社、株主優待が1,000株からの会社は引き下げを望まれるでしょう。

株主数が減ると、残った株主は「逃げ遅れているのではないか」と不安になるものです。「業績が好調で株価が上がると個人株主は売却して離れていく」という市場原則を説明してあげましょう。同時に「適正な株主構成、長期保有の株主の確保のためにIR活動に力を入れていく」とお伝えになるとよりよろしいかと思います。


<実際に出た質疑応答例>

株主の優待について、長期保有の優遇はしてもらえないのか?
長期保有の方への優遇について、今は検討していないが、何か検討はしていきたい。
株を長く所有している株主には優遇があってもいいのではないか。
他社で優遇措置を設けている企業があることは把握している。全体を見極めて判断していきたい。
株主優待はカレンダーよりクオカードなどにしては?長期保有への優遇もあるべきだ。
株主優待については、配当などが本来であり、株主公平の観点からも積極的には考えていない。尚、長期保有優遇措置については現時点では無いが、検討はしていきたい。
株主優待が1,000株からではなかなか手が届かない。単元株の100株から優待してくれないか。
株価水準が低く、100株で約9万円からの株主に優待はできかねる。コストが甚大となる。他社と比較して遜色ないと考えるので現状を変更する考えはない。
株主優待の基準を1,000株から100株に変更してほしい。1,000株となると600万円くらいの投資が必要となる。
株主優待は株主への還元という位置づけではなく、ファンになってほしいとの思いからである。株価が上がって個人株主が減ってきているので、基準については、今後見直しを検討する。
株主優待の対象株数を下げてほしい。
今年から5年以上保有の株主への優待の拡充を図ったところである。保有株数を考慮した優待については今後の課題とさせていただきたい。
株主が4千名近く減っているが理由は把握しているか?
特に懸念はしていない。これは個人株主の減少。2014年に株式分割を行い流動性が向上して株主が増えたことの反動。特に重大な事が起きているわけではない。
株主が減少しているが、個人株主を安定株主にする政策を出してほしい。
一般株主の減少を当然とは考えていない。個人は8%くらいいる。出来るだけ多く株式を持ってもらうために個人向け説明会・Webコンテンツ充実をしてきたが努力不足と思うので頑張っていく。
個人株主が減っているのはどうか。施策は?
(社長)双方向で向き合う機会を作っている。長期保有してもらうために減配せずに増配していく累進配当制を導入している。
(担当常務)気にしている。短期保有の株主が株価上昇局面では売るという側面もある。

2)お土産関連

株主が電車に乗ってわざわざ来るのはまずお土産欲しさといっても過言ではありません。

かつては少しでも多くの株主に来てもらいたいとお土産を配布していた会社も多いですが、昨今の会社・株主双方の意識の高まりから、会社側としては「お土産で誘うのはやめよう。来場者が減ってもいいじゃないか。本当の対話ができる株主に来てもらえれば」と考え、株主側も「お土産目当てで行くのではない。会社の状況を見に、対話をしに行くのだ」という流れが出来てきたようです。

ただ、こういう流れに乗れない株主のほうが多数派です。「株主様、株主様と持ち上げる割には手ぶらで帰らせるのかよ」と考えます。本来、株主とはいえ、会場に来て「なんだ、ここは土産はないのか?」などと聞くのは傲慢であり失礼極まりない話ですが、他の会社が渡していると聞くと「なぜオレの投資先は無いのか」と不公平感から不満を持ち、そうした恥さらしな発言が飛び出します。


<実際に出た質疑応答例>

お土産は何故今回から廃止されたのか?
来場できない遠方の株主様と公平を期すため廃止。総合的な満足を重視した。
今回からお土産廃止となったが、その予算はどこに使われているのか?
具体的な用途は差し控えさせて頂きたいが、株主への還元、QOLコーナー、会場までの送迎バス等、株主総会の充実化を実施したいと考えている。
お土産廃止に関して、公平を期すためとのことだが、会場までの交通費が自腹でもあるし、再度公平性については考え直して欲しい。あとバスは帰りの便は用意してくれるのか?
株主総会自体が魅力的になるよう努力する。帰りの便も用意している。
お土産が無くなった。お土産のない他社の総会も出席者が激減している。公平・公正というが真にリスクを取っている有力顧客としての個人株主に報いてくれないのか。
当社製品をお土産とすることは持ち帰り時に安全性の問題もあり不可。企業価値の向上を図り、株主には配当で報いることとしたい。
お土産が無くなったのはなぜ?
去年は6千人ぐらい来た。株主とも対話をするため、還元は配当で行う。お土産なくし半減したので質問出来る確率も上がった。
(会場の)椅子の数の少なさにびっくり、場所も遠く、お土産が無くなるのは知っていたが、去年のおいしいコーヒーくらいはあるかと思ったら、それも無し。冷たい水だけ。
3年前、お土産と懇親会があった時には、大ホテルで2千名を超える株主が来場されていたが、すべての株主への公平性とコスト面から見直しをした。来年8月に移転する新本社には大きなホールも構えているので、そちらでの開催を考えている。そこでは、コーヒーは提供したい(笑)。
お土産は廃止しないで欲しい。
引き続き実施したい。
当社はお土産を配っているが、A社ではお土産を廃止し、4,000円相当のものを株主全員に配布している。そういう事も考えてはどうか?
現在は、せっかく来て頂いた株主の事を考え、お土産を配っている。是非、家に帰って家族で楽しんでもらいたい。

お土産をやめる会社、最近やめた会社は理由をしっかり伝えましょう。「配当で還元したい」はよくある回答例ですが、本来これは、何万人という株主が対象である株主優待を実施していない会社の抗弁です。せいぜい数百人の来場者に数百円のお土産を配っても数十万円にしかなりません。

お土産廃止の理由は「遠隔地の株主様との不平等の解消のため」というのが、完ぺきではないが無難と思われます。「代わりに○○をすることにした(ため)」があるとさらに良いです。

障害者施設等の製品を採用したり、被災地の特産品を使っていた場合は、やめると思いがけない質問が来ることがあります。「見捨てたのか」「まだ復興は終わっていない」等々。

お土産をやめると来場者は激減しますが、来てくれている株主に申し訳なく思う必要はありません。来場者減少について質問があれば、「それでも来てくださる皆さんのような株主様とじっくりと語り合いたいと思っていた」等コメントするのも良い対応です。

このように、昨今はお土産廃止の動きがあるので、継続している会社もその考え(理由)を整理しておいた方が良いです。個人株主から「お土産を配るのではなくその分を他の方法で還元することを考えたらどうか」、という意見が出る時代なのです。


次回は、これぞ旬(?)「働き方改革」に関する話題をまとめます。ご期待ください!

 

この連載中に記載した青色文字のコメントは、全て筆者の個人的な見解であり、過去および現在所属する組織の統一見解ではありません。正確な情報と長年の経験に基づいて提供しておりますが、内容の正確性につきましては免責させていただきます。それぞれの見解につき、組織としてその導入・採用を推奨するものではありません。実際の運用に際しましては、専門家である弁護士、証券代行機関等の方々にご相談いただきますようお願いいたします。

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