シリーズ「今年の株主総会 質疑応答の話題」
~その傾向から、個人株主と会社側双方の成長を見る~

2018年10月1日

ディスクロージャー事業部 IRソリューション部 イベント制作部担当
執行役員 部長

伊藤 直司

今年の株主総会 質疑応答の話題

連載第三回

③「株価(の低迷)」、「株主還元」

※文中のQおよびAはすべて株主総会の会場で実際に出た質問と回答です。青色文字は筆者の個人的コメントです。

1)社外取締役に直接抱負・感想・意見等を要望

<実際に出た質疑応答例>

会社の業績は悪くないのに株価が低い。株価について、どう考え、どう対応していくのか。
経営陣は今の株価に納得していない。株主価値の拡大が大事で、できることをやっていきたい。ROEの引き上げが、長期的には影響があると思っている。また、資本をため込まず、投資や自己株買いをやっていくし、配当も順次引き上げる。なぜ株価が反応しないのか分らないが、株主ともっとコミュニケーションをとり、引き続き努力していく。
(議長より補足)株価は非常に気になる。短期的に見るとマイナス金利の影響。現場の声として政策を決める人々に届けたい。中長期的には、成長が可能か否かが重要。これからはきちんと説明していく。実現できるかという問題もあるが、それをリードしていくのが経営陣の責任だと思っている。
業績は良くて配当もいいが、株価が上がっていない。
市場でノンバンクと思われている。金融業界の動向に引きずられてしまっている。IR活動で会社の事業を説明しているが、市場では米中関係が悪くなると金融も悪くなると思われており、影響される。これはどうしようもない。そこで、株主に報いるには配当を上げるか自社株買いしかないと思うようになった。配当は日本企業では上位の水準だと思っている。今までは過去最高の業績を残せば株価が上がると思っていたが、どうもそうはいかないとわかってきた。同時に自社株買いが株価上昇に効果があるとわかってきた。少しお待ちください。
株価が1,440円代と非常に安く感じるが、自社としてどう感じているか。
個人的な意見になるが、安さは感じている。自社株を買うと出来高が下がるため、自社としては利益を上げるしかなく、知名度・流動性・業績の向上に努めていく。
競合A社の株価が当社の株価より高い。この株価についてどのように考えるか。
時価総額からするとA社は200億円、当社400億円と2倍であるので、株式マーケットからは評価してもらっていると考えている。
株価についてどう思っているのか。他社では具体的に答えてくれた。
安いと認識。ここ2年、薬価改定などのネガティブ材料が影響。今年以降は株価回復の材料がそろう。
株価の見通しを。
これまで赤字体質だった○○部門が立ち直ってきた中で、まだまだ評価がされていないと思っている。この部門は大きなヒット作がなく目立たないので、株価に結びついていない。××部門についても、主要製品の規則改正の影響が読めずに不安とされていたが、規則が決まった。これで改正の影響による不安はなくなったので、ヒット作を出して株価に反映させていきたい。
自己株の取得をすると大抵は株価が上がるものだが、直近で自己株の取得をしたのに株価が下がっている。経営陣はどう考えているのか。
株価が下がっていることについては遺憾に思うが、中計を実現していき、業績をあげることに注力する。
招集通知に配当金の増配について書いてあるが、株価についてはどう考えているのか?民営化の際に株を購入したが、そのころの株価に戻すよう努力する気があるのか?
企業価値向上に取り組み、業績を上げ、株価についても高くなるように取り組んでいる。
(重ねて質問)いつまでに株価を民営化当時の水準に戻すのか、期限を明言して欲しい。また、招集通知に株価の推移を載せて欲しい。
株価は自社の努力だけでどうにか出来るものではないので明言は出来ない。ただ、企業価値の向上に取り組み、6年間でPERをXX倍に引き上げた。引き続き、企業価値の向上に新経営陣で取り組んでいく。株価の推移の掲載については検討する。
PER、PBRが他の日経平均銘柄に比べると低いがどのようにみているか?
株価は複合要因でできているのでコメントは難しいが、現状には満足していない。アメリカが保護貿易を進めようとしていることが投資家の心理的なリスクになっているのではないか。中計で掲げている利益水準を達成できれば、ある程度の株価までいくと考えている。
配当政策を転換してもらい、配当は競合A社のように業績に関係なく還元してほしい。
自己株式の取得を含めて株主への総還元性向を重視している。配当は固定でなく業績によって考えるべきであると考えている。
株式の流動性が低いのではないか。
流動比率は45%ある。毎年1万名の株主が当社の株式を取得してもらっているので、低いとは考えていない。
(80代男性)株価の動向について順調なようだが、外国人投資家の数はどうか?
ここ5年で1%から6.2%程度まで増加した。

これは個人的にとても興味のある質疑応答。80代の男性が、何を知りたくて外国人持ち株比率を尋ねたのでしょうか?株価が順調なのは外国人が買っているからかと思ったのでしょうか?


株価については、「経営者自身がどう思っているか」と「株価向上のため注力すること」を表明するのが重要。「株価は市場が決めること」的な発言は他人事と響き、不満を持つ株主の心の火に油を注ぐことになります。

そもそも株価に対する不満を言うのはヤボな話と、心ある株主はわかっています。ではなぜ不満発言が出るのでしょうか。それは、株主は株価が下がっていること自体に不満があるのではなく、株価が下がって株主が満足していない状況を経営陣はわかっていないのでは、何も手を打っていないのでは、ということにいらだちを覚えるからです。

経営陣がその点をしっかり認識し、今後の動きや打開策を考え情報開示やIRに力を入れていることを伝えれば、「株価は色々な要素があるから仕方ないよな。」と理解してもらえるはずです。

次回は、「株主優待」と「お土産」です。株主にとっては、現実的でとても関心のある話題です。今年の傾向はどうでしょうか?

この連載中に記載した青色文字のコメントは、全て筆者の個人的な見解であり、過去および現在所属する組織の統一見解ではありません。正確な情報と長年の経験に基づいて提供しておりますが、内容の正確性につきましては免責させていただきます。それぞれの見解につき、組織としてその導入・採用を推奨するものではありません。実際の運用に際しましては、専門家である弁護士、証券代行機関等の方々にご相談いただきますようお願いいたします。

ナレッジ一覧に戻る