2016年7月19日
海外IR事業部
上席専任部長
臼井 俊文
株主は企業をどう呼ぶのか
株主総会で株主からの質問を聞いていて面白いことに気づきました。企業をどのように呼ぶのか質問者によって異なっているということです。ある質問者は「御社は~」と言い、別の方は「我が社の今期業績ですが~」と言っています。
この辺は企業の主権者は誰なのかの意識が現れていて興味深いところです。アメリカでコーポレートガバナンスと言えば、株主が企業を統治するという概念が強いので、主権者が「株主」、従って総会で質問をするなら「我が社」というのが自然でしょう。
日本で企業は誰のものという議論になると、株主だけではなく、従業員、顧客、さらには社会全体なんじゃないかという多元的なイメージがあるので、企業の代表たる社長・役員を前にして「御社」と言いたくなる気持ちもよく分かります。
英文招集通知を作成する会社が急増
今回のテーマは株主総会への招待状、「招集通知」を取り上げたいと思いますが、近年増加している外国人投資家に企業がどう対応しているのかに絞り、英文の招集通知についてお話ししたいと思います。今回は文字少なめ、グラフ中心でいきます。
私のいる部署で英文招集通知の調査を行いましたので、まずはそこから。日経225社が対象です。
図1は225社中、何社が英文招集通知をTDnetに発表したか。2年前の162社が、翌年176社、今年は198社を数え、9割に迫る企業が英文招集通知を作成するようになりました。過去数年じりじりと増えてはいましたが、今年大幅に増えたのは、ますます発言力を増している外国人投資家への対応、そして2015年6月に施行されたコーポレートガバナンス・コードが大きいと思います。
2年間で作成会社が倍増
図2はもっと母数を大きくして上場企業全体の趨勢を見ようとしたもの。といっても日本取引所グループのアンケートに回答した企業(3月決算)ですので、正確には上場企業全体ではありませんが、傾向はみてとれると思います。
英文招集通知有り | 322 | 455 | 676 |
---|---|---|---|
総回答社数 | 2133 | 2097 | 2026 |
2000社超の回答数では2年前322社が今年は倍以上、割合では2年前7社に1社だった開示が、今年は3社に1社までと急増しています。
逆に言えば日本の上場企業の三分の二は、企業自身が英文を提供していないので、ISSやグラスルイス(米議決権行使助言会社)など第三者の手に翻訳を委ねているということになります。
外国人投資家の存在をあまり重視しない会社もあるようですが、コーポレートガバナンス・コードにも謳われている”全ての投資家に平等に情報を提供するべきである”という思想からすれば、特に東証一、二部上場企業においては改善の余地はありそうです。
また話を日経225に戻して、図3では業種別の傾向を表しています。
どの業種も維持か増えているのが見てとれます。全社が開示しているという業種(*印)が昨年の12から14業種に増えていますし、反対に5割以下しか開示していなかった9業種が今年は4業種まで減っています。内需型、外国人投資家が少ない業種が開示には消極的と言えます。
英文招集通知も2週間前開示が基本
図4は総会予定日の何日前に英文招集通知が開示されたかを表したもの。全体の三分の二は出していないという現実はあるものの、出すとなれば98%の企業が和文について会社法で義務付けられている2週間前には英文も出していることが分かります。日本企業の律義さが現れているように思います。
米国の招集通知は役員報酬とコーポレートガバナンスに多くのページを割く
ご参考になるかと思いアメリカ企業(GE)の招集通知を付けました。黒・青の二色刷り、紙もロッキー山脈でいやというほどとれる安いパルプに質素な作りですが、ピクトグラムやレイアウトが読者の興味を引きますし、米国の機関投資家が情報開示を強く求めているガバナンス、役員報酬に非常に多くのページが割かれているなど内容の充実度や見やすさには見習うべき点がありそうです。また裏表紙にはQRコードが8つ付いていて企業サイトのアニュアルレポートやIR、CSRページ等に飛べるようになっていて便利です。
米国GE社の招集通知
企業側は自社をどう呼ぶのか
最後に当コラムを一緒に担当している伊藤さんに教えていただいたお話です。10年以上前、アニュアルレポートの社長メッセージなどでは、日本の会社は自社を「わが社」「当社」と呼び、アメリカでは”your company”と表記していたそうです。「さすが米国」ということになり、一時伊藤さんの前職の会社でも株主あて文章で「あなたの会社は・・・」という言い方をしたそうです。
そうしたらある株主から、「他人事みたいに言うな!お前の会社だろう!しっかり経営しろ」というお叱りを受けたとのこと。難しいものですね。
因みに、今のアニュアルレポートや統合報告書をのぞいてみましたが、欧米では「自社名」もしくは“we”、日本でも「自社名」や「当社」という表記が主流のようです。また招集通知は、欧米では「自社名」と”the Company”の併用、日本では「自社名」と「当社」の併用が多く見られました。
会社が誰のものかは企業経営者側も悩んできたようですが、株主、役員・従業員等全てのステークホールダーを包含して「我々みんなのもの」ととれるような言い方が、企業側が発行する文書上の落ち着きどころのようです。