「IRの効果測定とは?」PART2

2016年11月28日

執行役員 IR事業部長

伊藤 直司

PART1では、私がHOYAでIR活動の目的として一番重視していたのは株主・投資家とのコミュニケーションであり、絶えず信頼関係の構築を第一と考えていたとお話ししました。そして会社としての情報開示の基本姿勢とIR担当者としての私のIR活動方針は4つのキーワードであらわされるとお話しました。今回はそこからお話を始めたいと思います。

HOYA-IRの「4つのF」

そのキーワードとは、「FAIR」、「FAST」、「FRANK」そして「FRIENDLY」の4つです。それぞれの頭文字をとり、「4つのF」と呼んでいました。

FAIRとは 「公平・公正に」という意味です。「どんな相手にも平等に、可能な限りの情報を提供する」「情報に差をつけない」「申し込まれた取材は全て受ける」というような行動で示していました。
海外の投資家向けに英文資料の同時配信を進め、さらに、財務状況を比較しやすいようにとIFRS(国際会計基準)を早期に任意適用した(日本で二番目)のもこの方針からでした。
FASTとは 「迅速に」という意味です。特に決算関連の情報は、決算期を過ぎたら一日でも早く集計して開示できるようにと考えて体制を整えました。その結果、私がIRを担当する以前は決算期(3月末日)から1か月半かかって翌々月(5月)中旬に発表していたものを、1995年には翌月末(4月25日)に早め、2001年には決算期後3週間で発表するようにしました。発表当日の開示時刻も1999年からは場中の13時に開示するようにし、発表の2日後に開いていた説明会は同日に開催するようにしました。いずれも、決定した情報はできるだけ早くお伝えしようという気持ちからの取り組みでした。
FRANK/FRIENDLY  これは「トップ自ら親しみやすく、オープンに、わかりやすく」というような意味です。IRのどんな場面でも、「経営トップである社長が自分の言葉で語りかけることが重要」と考えていました。決算説明会には必ず社長が出席するようにし、1998年から自主的に始めた四半期決算開示では、説明会も四半期ごとに開くようにしました。毎四半期に必ず社長が出席しました。説明会に先だって社長とのミーティングは必要不可欠で、そのための情報は集めましたが、「説明会当日用の原稿」なるものは用意したことがありませんでした。「みんな頭に入っている。自分の言葉でしゃべるからいいよ」とのことで、要請もありませんでした。
さらに社長には、実際に株主・投資家と対話をしてもらうために、四半期ごとに機関投資家とのスモールミーティングを複数回行ってもらい、大株主にはこちらから訪問しました。こちらもざっくばらんに対話を楽しんでいただくように心がけました。

目的が明確になったところで、効果測定の指標を考えてみよう

さて、HOYAではこのような施策で目的に進んでいったわけですが、効果測定という点ではあまり深く考えたことはありませんでした。その理由は前回冒頭にお話した通りです。しかし今回は、現在のIRアドバイザーという立場でその効果を測定する指標を考えていくことにしましょう。
この指標は、当然のことながら一つや二つに集約限定されるべきものではありません。例えば株価。きわめてシンプルでわかり易く、企業に対する株主市場の評価として一番の指標と言えますでしょう。しかしご存知のように株価は企業の業績だけで、ましてやIRだけで上下するものではありません。日本国内のみならず世界の政治経済・為替の状況等、企業努力ではどうにもならないことが影響してきます。売買の出来高も同様です。
株主数も良い指標になり、長期保有の優良な株主を増やすことはIR担当者にとって重要なミッションですが、IRの成果として株価が上昇すると、個人投資家は逆張りといって株を売却して離れていく傾向があるので難しいところです。

外部評価の向上

「外部評価の向上」というのはIRの目的の一つですし、これを効果測定の指標と考えることができます。
日本取引所グループや日本IR協議会、あるいは日本アナリスト協会等が主催する各種のIR優良企業の表彰制度は、非常に多方面から会社のIR活動を客観的に評価したものですので、IR活動を進めていくうえでの大きな目標になりますし、この結果は効果測定の貴重なバロメーターになるでしょう。
役員が出席し、数多くの投資家との接点である決算説明会や中期計画、経営方針等の説明会、あるいは個人投資家向けの会社説明会等は、IR活動の効果測定のまたとない機会と言えるでしょう。IR担当者はできるだけ多くの投資家に関心を持ってもらい、決算説明会に来てもらうために日頃から様々な努力を惜しまないはずです。決算説明会への出席者数は充分にIR活動の効果測定の指標となり、信頼関係の構築が出来ているかの尺度となりえます。とはいえアナリストも多数の会社を見ていますから、他社と日程がかぶるかかぶらないかで出席者数は大きく違ってくるのが悩ましいところです。
決算説明会での質問数・質問内容、出席者のアンケート回収率・記載内容、アナリストカバレッジの数やアナリストレポートの発行数・・・。これらすべてがIRの効果測定の指標になります。決算発表後の業績取材インタビューの申し込み状況(件数、相手先の規模・訪問者のレベル)、対応/訪問件数・質疑応答内容等も効果測定に寄与します。
個人向けのIR活動においても効果を測定することができます。会社説明会や施設見学会の応募・来場人数やIRイベントにおける自社ブース立ち寄り来場者数、質問数・質問内容、アンケート結果等は貴重な測定指標になりえます。
ホームページのIRサイトのアクセス数、問い合わせ内容等も重要な指標となりますし、ツイッター、FACEBOOK等のSNSをIRに活用している会社ではさらに効果測定の幅が広がるでしょう。

さいごに・・・

繰り返しになりますが、上記に挙げた指標はそのどれもが効果測定の一つの要素には違いないとしても、それだけで測定できるのものではありません。さらに、活動の結果を量的に測定することは客観的に見てその効果がわかり易いものの、重要なのはその裏側にある質・中身であることは言うまでもありません。いくら大勢のアナリストがレポートを書いてくれたとしても、大事なのはキーとなるアナリストが会社のことを本当に理解し、正当に評価してくれるかどうかです。これはと思う投資家が実際に長期視点で株式を保有してくれるかどうかです。
正当な評価は長い間継続して行われた活動の成果であり、一朝一夕に見返りがあるものではありません。経営陣としても担当者としても活動の成果や効果はすぐに知りたいところではありますが、数回だけ行った活動に対して短期的に結果を望むようなことは慎むべきでしょう。

IRは株主や投資家との信頼関係の構築が目的だと申し上げました。この狙いは、信頼関係ができてこそ正当な理解と評価が生まれ、彼らも私たちに本音で意見を言ってくれるようになると思うからであり、それを適切に社内にフィードバックしていくことがIRの仕事の根幹だと思うからです。信頼できる投資家の意見なら経営陣も聞く耳を持つはずです。
あなたがIR担当者となったということは、その高いコミュニケーション能力を評価されてのことと思われます。どうか株主・投資家との対話を楽しんで良好な信頼関係を構築し、会社の明日のために企業価値の向上を目指してください!
(終わり)

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