経済産業省・東証の選定する「テーマ銘柄」について

2017年7月13日

日本財務翻訳(株)
営業推進部統括マネジャー

臼井 俊文

■3年目の「攻めのIT経営銘柄」
去る5月31日に発表された経済産業省・東京証券取引所主催の「攻めのIT経営銘柄2017」について、2年にわたりその選定委員の務めさせていただいていることもあり、今回は前段でその話題、後段で他2つの「テーマ銘柄」についてお話ししたいと思います。

∗同時に、中小企業を対象とした「攻めのIT経営中小企業百選2017」も発表されておりますが、ここでは触れませんので、ご興味ある方はこちら(経済産業省のHP)をご覧ください。
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/it_keiei/100sen.html 新しいウインドウで開く

「攻めのIT経営銘柄」銘柄は、東証上場全企業向けに経済産業省がアンケートを実施し、IT活用に関する5項目と財務状況をスコアリングした上で、筆者を含む選定委員会で受賞企業が審議・選定され、毎年5月に発表会が開催されます。詳細はこちらをご覧下さい。
http://www.meti.go.jp/press/2017/05/20170531007/20170531007.html 新しいウインドウで開く
発表会は今年も昨年同様イイノホールにて、受賞企業紹介、受賞企業より代表3社による講演、パネルディスカッションという内容で行われましたが、特にパネルディスカッションは伊藤邦雄教授(一橋大大学院商学研究科特任教授)の軽妙洒脱な司会進行もあり、また企業代表の方々からの他では決して聞けない裏話もあり、参加者・受講者にとって大変参考になるものであったと思います。後日ネット上で検索してみたらメディア報道は昨年よりそう多いとはいえませんでしたが、圧倒的に増えているのが受賞企業HP上でのニュースリリースでした。新鮮味が薄れ(?)メディアの注目度はそう上がっていない一方で、企業側が積極的に受賞を世に知らしめるというのが今年の印象です。2年目まではIT関係のメディア数社が当表彰制度の内容を紹介する記事が見られましたが、3年目に至って認知度も向上したのかメディアによる報道が減った一方、受賞企業の多くが受賞の事実を企業ウェブサイトで紹介するようになりました。

■なぜ「攻めのIT」なのか
そもそも攻めのITを後押しする理由や根拠は何かという点について、委員長である伊藤邦雄教授による基調講演で明確に示されていましたので、2点だけ挙げておきます。
〇過去20~30年近くにわたり各国の株価指数やコモデティが大幅な上昇を見せているのに対して日本株だけほとんど横ばいと言っていいほど伸びていないこと。伊藤教授より衝撃的なグラフが示されていました。
〇近年の研究でIT投資(特に守りでなく攻めの)が企業の利益率向上に明確な関係性があると考えられていること(特に論文⇒ "Information Technology and Firm Profitability: Mechanisms and Empirical Evidence" Sunil Mithas他 2012年)。
http://www.misq.org/skin/frontend/default/misq/pdf/appendices/2012/MithasTaftiAppendix.pdf 新しいウインドウで開く
日本は2つのリセットを経て、奇跡的な近代化を成し遂げたと言われます。一つが明治維新で、政府主導で「富国強兵」が行われ、もう一つが終戦によるアメリカ主導の「占領政策」への対応。そして本来やっておくべきだった第3のリセットが行われなかったことが"失われた20年"につながったとも。政府主導の「日本再興戦略」にそれだけの起爆力は今のところ見られませんが、とにかく変革しなければという点では与野党、官民に関わらず衆目の一致するところでしょう。

■「再興戦略」と3つの選定銘柄
経済産業省と東証は「攻めのIT経営銘柄」に先立ち、2013年2月に「なでしこ銘柄」、2015年3月に「健康経営銘柄」を発表しています。これは「日本再興戦略」の3つの挑戦とされる 1)日本の「稼ぐ力」を取り戻す、2)担い手を生み出す、3)新たな成長エンジンの育成、に符合するもので、それぞれの戦略を推進するためにモデルケースとなる企業の選定を目的として創設されました。「なでしこ銘柄」は女性が働き続けるための環境整備を含め、女性人材の活用を積極的に進めている企業を、「健康経営銘柄」は従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を選定しています。国連開発計画(UNDP)のアジェンダで示された解決すべきグローバルな社会課題・SDGsの17の目標のうちの3つにも特に合致するものでもあります。
SDGsについてはこちらをご参照下さい。
http://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/sdg/post-2015-development-agenda.html 新しいウインドウで開く

経産省・東証によるテーマ銘柄 選定・発表
(初回)
日本再興戦略
(2014年改訂)
国連SDGs
(2015年)
IRにおけるキーワード 株価指数の例
攻めのIT経営銘柄 攻めのIT経営銘柄 2015年6月 日本の「稼ぐ力」を取り戻す 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう IT -
なでしこ銘柄 なでしこ銘柄 2013年2月 担い手を生み出す 5. ジェンダー平等を実現しよう ダイバーシティ人財開発 MSCI日本株女性活躍(WIN) 212銘柄
健康経営銘柄 健康経営銘柄 2015年3月 新たな成長エンジンの育成 3. すべての人に健康と福祉を 健康 -

もとより日本再興戦略は、失われた20年を取り戻すべく中長期的な企業価値向上を意図したもので、企業、投資家、その他ステークホルダーに近視眼的な設備投資、株式投資から脱却し、相互の対話等を通じて本来の国の持つ力を発揮しようというものです。SDGsも今から13年後の2030年のあるべき姿を示すことにより、同じく中長期的な持続可能な多岐に亘る"開発"やイノベーションによって課題解決しておこうということがテーマになっています。
テーマ銘柄に選定された企業は、かなりハードルの高い(少なくとも)3つの国連が掲げた目標のトップランナーであるといえます。2030年までに①産業と技術革新の基盤を作る、②ジェンダー平等を実現する、③すべての人に健康と福祉を行き渡らせること、がそれに該当します。理想郷で非現実な目標ではなく、本気で実現を目指していくという点が重要です。現状の延長線上では達成できないかもしれません。これからの企業、個人、投資家による新発見、技術革新によって、実現させようというかなりアグレッシブな目標だといえるでしょう。

■複数選定企業!
IT経営、女性活用、健康経営という3つの異なるテーマの中から一つでも選ばれることは、それだけでも大変な企業活動であり意識の高さをうかがわせますが、なんと複数に選ばれている企業もあります。他では紹介していないようなので、ここにまとめてみました(準銘柄、注目銘柄は含まず本賞だけを対象としております)。
3テーマ全てで選定されるいわゆる"三冠王"が3社ありました。
1925 大和ハウス工業(株)
7862 トッパン・フォームズ(株)
9201 日本航空(株)
また二冠王が10社あり、以下の表にまとめてみました。

攻めのIT なでしこ 健康
1925 大和ハウス工業(株)
7862 トッパン・フォームズ(株)
9201 日本航空(株)
1803 清水建設(株)  
2502 アサヒグループホールディングス(株)  
5108 (株)ブリヂストン  
5411 JFEホールディングス(株)  
7201 日産自動車(株)  
8439 東京センチュリー(株)  
3591 (株)ワコールホールディングス  
5332 TOTO(株)  
8601 (株)大和証券グループ本社  
9531 東京ガス(株)  

こうした複数テーマで選ばれている企業は、長期保有銘柄として日本を代表する銘柄で、正にBest of the bestといえると思います。時価総額の多いところばかりで面白くないという方は、個別テーマの受賞企業をご覧ください。小粒でもきらりと光るユニークな銘柄も含まれています。
一点だけ付言しておきますと、選定は企業の応募を前提としているので、どんなに優れた活動をしていても経済産業省から年に一度送付される書類に応募しない限り選定対象にはなりません。応募して書類審査、選定委員会による精査、重大な法令違反等の有無というスクリーニングを突破するというのも立派なIR活動の一環であり、投資家に対する訴求力も年々高まってきていると思います。まだ応募されていない企業様は3ジャンルの中の得意分野で腕試しをすることをおすすめします。

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