IRベストプラクティス・ガイドライン2017年版について

2017年4月20日

日本財務翻訳(株)
営業推進部統括マネジャー

臼井 俊文

今年の初め、オーストラリアのメルボルン在住の日本人の女性から弊社の私の部署宛にメールが届きました。「アマゾンに載ってなくて買えないのですが、どうしたら手に入りますか?」
その方の求めていた冊子は「IRベストプラクティス・ガイドライン」といい、筆者も関係しているものでしたので、今回はそのお話をしたいと思います。

毎年、英国IR協会がIRに関してのベストプラクティスを協会のホームページ上に掲載します。日本の企業にとっても参考になる事項が多いと考え、PFP(Project Future Proof)∗∗という東京のIRコミュニティメンバーが中心となりその日本語版を冊子の形にして発刊してきました。
2010年が日本版創刊号なので今年で8冊目になります(下図の右端が2017年版)。

本国(英国)のベストプラクティス・ガイドラインは文章をホームページに掲載しているだけで、事例もなく無味乾燥なのに対し、当冊子は本邦企業約40社から各社レポートの掲載許可をいただき、好事例をテキストとともに紹介しているところにも特長があります。デザインも凝っていてなかなかカラフルです。

∗(英: best practice)は、ある結果を得るのに最も効率のよい技法、手法、プロセス、活動などのこと。

∗∗参加メンバー(写真左より)
越智義和(㈱ファイブシーズ)、米山徹幸(埼玉学園大学)、臼井俊文(筆者)、デビッド・ラッセル(㈱ラッセル・コミュニケーションズ)

制作の苦労話は置くとして、発刊以来の当冊子の受け入れられ方の変化には興味深いものがあります。
当初の主な反応はこんな感じでした。
 読んでない人「英国の事例って、日本企業の参考になるんですかねぇ」
 斜め読みした人「詳しく書かれていますが、詳細過ぎて実際に使えるのは一部かなぁ」

近年の反応です。
 読んでない人「英国でこんなの出てるんですね。IRサイト、アニュアルレポート制作の参考にするのでもう一冊下さい」
 斜め読みした人「ESG情報の開示を昔から勧めていたんですね。ウェブとアニュアルレポートだけじゃなくて、ソーシャルメディアも含まれてますね」

好意的な反応への変化の背景として日本のIRが英国のそれに近づいたことが挙げられると思います。IR・CSRに関しては、英国は先進国というべきで、米国と並び世界をリードするような組織の本部を擁しています。彼我の差を感じるのは、例えば英国では会社法でアニュアルレポートに非財務情報(例:サプライチェーン、サステナビリティ)の記述を要求していることで、統合報告書という言葉すら一般化していない2006年に制定されています。
因みに英国(や多くのEU諸国)ではアニュアルレポートは制度開示で上場している企業は必ずリリースしなければなりません。日本でいうと有価証券報告書のような位置づけです。
ついでに申し上げておくと、統合報告書を制度開示としている国が世界で二つあります。南アフリカは有名ですが、それにブラジルも加わっています。アニュアルレポート自体にESG情報が掲載されるのが世の潮流となっていますから、統合報告書と区別する意味合いもなくなっていく気がしますが。

利用方法について懐疑的でもあった日本のIR関係の方々が同冊子に興味を持っていただくようになったきっかけは、やはりコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の施行(2015年6月)と考えています。CGコード自体、OECDのCGコードを母体にしながら金融庁と識者で話し合われながら作られ、OECDも先に出来ていた英国のCGコードから多くの示唆を受けています。

ウェブ、アニュアルレポートをIR活動の範疇に入れている企業は少なくありませんが、ソーシャルメディアをIR活動の中核に据えている日本企業は多いとはいえず、英国を先行指標とするならこの領域も今後間違いなく日本でも広まっていくと考えられます。

冒頭のメールを送っていただいた女性ですが、オーストラリアでフリーでIR関係のプロジェクトをしており何か指針になるものはないだろうかと調べていたら、当冊子が検索に引っかかったということでした。早速お送りしました。アマゾンには載っていませんが、無料配布していますので、ご興味ある方は以下までお問い合わせください。

株式会社プロネクサス/日本財務翻訳株式会社気付PFP事務局 水野・鈴木 03-5777-3609
asako.mizuno@pronexus.co.jp

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