「攻めのIT経営銘柄」とIT-IRについて

2016年3月7日

海外IR事業部
上席専任部長

臼井 俊文

ITド素人の私に選定委員就任の要請。IRの立場から参加

ここにきて評価が分かれているアベノミクスですが、その日本再興戦略のひとつに「攻めのIT経営銘柄」というものがあります。

まだ広く知れ渡っているとは言い難いですが、経済産業省と東証とが2014年に共同で創設、あの「伊藤レポート」を出された伊藤邦雄教授が委員長となり、初回は2015年5月に18社が選定されています。筆者は第2回(2016年5月に発表予定)の委員のひとりでその選定に関わった者として、簡単なご紹介をさせていただこうと思います。

正直に申し上げてITに関してはド素人であり、”とてもお役には立てない”と委員への就任要請をいただいた際には固辞したのですが、”現場感覚からの観点も必要ですから是非”などと煽てられ、IR面では少しは役に立つかも知れないと不相応にも就任させていただいた次第です。因みに他の委員の方々は、大学教授、ITコンサル会社経営者など、大変ご見識の高い方々ばかりですのでご安心いただきたいと思います。

「攻めのIT経営」ロゴマーク

「IT-IRの推進で企業価値の向上」がプロジェクトのねらい

IRの観点からいいますと、日本の開示の流れはEUや米国を追いかけている感じで、①財務情報だけだった時代から②ESG(環境・社会・企業統治などの非財務情報)も付加して投資家に総合的に判断してもらうのが趨勢になりました。そこに加えての③「攻めのIT」という概念ですが、これを第3段階と考えるのかは議論のあるところでしょう。

とはいえ欧米ではITの活用が企業価値向上の大きな推進力となっており、業種によっては、日本は5~10年の遅れであると言う方もいます。総じて日本企業についてはITの遅れが企業業績低迷、ひいては株価低迷のひとつの要因であるというのが、IT識者の多くの意見のようです。

ところがIRや投資家側から、こうした指摘、つまり日本企業のITの遅れと業績や株価低迷とが因果関係にあるという指摘はほとんど聞こえてきませんでした。ある意味盲点でもあり、IT投資を投資家に報告する「IT-IR」の推進によりさらなる企業価値向上につなげるというのが当プロジェクトの狙いでもあると言えます。

「守りのIT」から「攻めのIT」へ

ITの先進企業については、さらなる企業価値向上にITを生かしてもらう―つまり「攻めのIT」ということになります。

一方で欧米に比べてITの活用が遅れている、或いは殆ど活用していない企業にはインフラとしてその導入を促す―つまり「守りのIT」から底上げしてもらうという狙いがあります。

何が「攻めのIT-IR」なのかは、経済産業省が昨年末に出した「攻めのIT-IRガイドライン」に詳細が記述されていますので、ぜひ一度ご参照いただければと思います。

毎年12月に応募アンケート。IT取り組みの見直しのチャンスにも

選定された(る)企業の顔触れはブルーチップで誰もが知っている銘柄が多いのですが、“えっ、こんな企業聞いたことない!"という発見もあり、なかなか興味深いものがあります。

毎年12月頃に経済産業省より上場各社の代表者様宛に「攻めのIT経営銘柄」への応募アンケートが配布されますので、参加されていない企業様は一度腕試しに応募されることをお奨めします。とても応募するようなIT活用をしていないということであれば、もしかしてそれが株価低迷の一因かもしれませんので、社内のITへの取組みを見直してみるきっかけになるかも知れません。

将来的にはここに選ばれた銘柄でファンド(たとえば「攻めのIT経営ファンド」)が創設されることになるかも知れません。大きく育つのか目立たずに終わるのか分かりませんが、しばらくご注目いただければ幸いです。

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